大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

京都地方裁判所 昭和48年(わ)1031号 判決

被告人 塩谷清

昭一二・八・二生 左官手伝い

主文

被告人を懲役一〇月に処する。

押収してある少年事件(簡易)捜査報告書六通(昭和四九年押第七八号の二、四、六、八、一〇および一二)全部および同捜査報告書四通(同押号の一四、一七、一九および二一)中の各「供述調書」と題する部分をいずれも没収する。

訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、昭和三三年四月京都府警察巡査を命ぜられ、警部補に昇格した後の同四四年九月三〇日から同四七年三月七日までの間、同府中郡峰山町所在の京都府警察峰山警察署に防犯係長として勤務し、非行少年等の補導、少年犯罪の捜査などの職務に従事し、かつ同署署長の事件送致事務の補佐をしていたものであるが、

第一  少年の大木清志、鈴木正和、大木義隆、大木和則、田中勤こと田中務、奥田進ら六名が窃盗事件を犯したか否かにつき充分な捜査を遂げていないのに、被害届を偽造し、少年らの署名印章を冒用して被疑者供述書を偽造するなどして捜査を遂げた如く装い、虚偽の少年事件(簡易)捜査報告書(以下捜査報告書と略称)および少年事件簡易送致書(以下簡易送致書と略称)を作成したうえ事件送致しようと企て、

一  昭和四六年一一月中旬ころ、同警察署において行使の目的をもつてほしいままに、いずれも捜査報告書用紙六枚を冒用し、その各被疑者欄に前記六少年の本籍、住居、氏名などをそれぞれ記載したうえ、

1 少年大木清志を被疑者とする捜査報告書の被害届欄および押収品目録欄に、食料品小売業糸留商店こと糸井義昭が盗難の被害届を作成していないのに、同人がペプシコーラ二ダースを盗まれたので届ける旨の記載をし、末尾に同人の氏名を冒書し、その名下に自己の指印を冒捺し、もつて同人作成名義の事実証明に関する私文書である被害届一通(昭和四九年押第七八号の四の捜査報告書中の被害届および押収品目録部分)を作成偽造し、

2 前記六通の捜査報告書の各「供述調書」欄にいずれも前記大木清志ら六名が供述書を作成していないにもかかわらず、同人らが昭和四六年七月二〇日ころ前記糸留商店から前記被害届の記載内容に沿う物品を窃取した旨記載し、署名欄に「大木清志」「鈴木正和」「大木義隆」とそれぞれ冒署し、更に情を知つている部下の同署巡査長前野誠吾をして、右と同様の箇所に「大木和則」「田中勤」「奥田進」とそれぞれ冒署させ、その各名下に自己の指印を冒捺し、もつて前記大木清志ら六名作成名義の事実証明に関する私文書である供述書六通(前同押号の二、四、六、八、一〇および一二の各捜査報告書中の各「供述調書」と題する部分)を順次偽造し、

3 前記六通の捜査報告書の各犯罪事実欄に、いずれも前記大木清志らが共謀して前記物品を窃取した旨それぞれ記載し、かつ右六通の捜査報告書の各意見欄の、被害者に処罰を求める意思がない、あるいは否認していないなどの部分にそれぞれそれに該当する表示をしたうえ、同六通の捜査報告書の各所定欄にそれぞれ自己の官職、氏名の記載および押印をなし、もつてその職務に関して自己作成名義の前記警察署長饗場芳夫宛の内容虚偽の捜査報告書六通(前同押号の二、四、六、八、一〇および一二のうちいずれも前記判示1、2記載の部分を除いたもの)を順次作成し、

二  同年一一月二一日ころ前同所において、情を知らない同署長饗場芳夫に対し前記一、1の偽造にかかる糸井義昭名義の被害届一通および前記一、2の各偽造にかかる被疑者供述書六通をあたかも真正に成立したものの如く装い、また前記一、3の各内容虚偽の捜査報告書六通をあたかも内容真実の文書の如く装って一括提出して行使し、

三  同月二〇日ころ前同所において、行使の目的をもつて、ほしいままに右各捜査報告書に基づき所定の簡易送致書用紙六枚を冒用し、その各被疑者欄に前記大木清志ら六名の職業、氏名、生年月日などを、各罪名欄に窃盗と、各犯罪事実欄に前記捜査報告書の犯罪事実欄記載と同一の事実をそれぞれ冒書し、各事後の情況欄に深く後悔し、改悛の情が認められる旨、各措置欄に厳重注意、保護者に善導確約させた旨、各証拠品などの欄に被害弁償している旨、いずれも虚偽の事実をそれぞれ記入し、そのころ情を知らない前記警察署長饗場芳夫をして右六通の簡易送致書の同人の名下にそれぞれ同人の押印をなさしめ、もつてその職務に関し、同署長作成名義の京都地方検察庁峰山支部検察官検事山内茂宛の右大木清志ら六名に対する内容虚偽の簡易送致書六通(前同押号の二二ないし二七はその各謄本で、同号の一、三、五、七、九、一一はその各控)を順次作成し、同月二四日ころ、情を知らない同署長をして前記峰山町所在の同地方検察庁峰山支部において、同支部検察官に対し、これらをあたかも内容真実のものの如く装つて送致させて一括行使し、

第二  少年を被疑者として取調べたが、その際当該少年の被疑者供述書を作成しなかったことから、後日前記同様の捜査報告書用紙の「供述調書」欄に被疑者の署名、印章を冒用して供述書を偽造し、これを同署長に提出して簡易送致の資料に供すべくいずれも行使の目的をもつてほしいままに、

一  少年の大同正和および岩崎啓道こと岩崎啓道の長男岩崎広義を窃盗被疑者として取調べた後の同月二五日ころ前記峰山警察署において、同人らを窃盗被疑者とする捜査報告書二通の各「供述調書」欄に昭和四六年二月中旬ころ男物カーデガン一着を窃取した旨それぞれ記載し、各署名欄にそれぞれ「大同正和」「岩崎道」と冒署し、各名下に自己の指印を冒捺し、もつて右両名作成名義の事実証明に関する私文書である供述書二通(前同押号の一四および一七の各捜査報告書中の各「供述調書」と題する部分)を順次偽造したうえ、そのころ同所において同署長に対しあたかもこれが真正に成立したものの如く装つて一括提出して行使し、

二  少年小森実を窃盗被疑者として取調べた後の同四七年二月一八日ころ、前同所において、同人を窃盗被疑者とする捜査報告書の「供述調書」欄に昭和四六年一一月中旬ころ、バイクを窃取した旨記載し、署名欄に「小森実」と冒署し、その名下に自己の指印を冒捺し、もつて同人作成名義の事実証明に関する私文書である供述書一通(前同押号の一九の捜査報告書中の「供述調書」と題する部分)を偽造したうえ、そのころ同所において、同署長に対しあたかもこれが真正に成立したものの如く装って提出行使し、

三  少年田丸勝彦を窃盗被疑者として取調べた後の同四七年二月一三日ころ、前同所において、同人を窃盗被疑者とする捜査報告書の「供述調書」欄に昭和四六年一二月二七日コーラ三〇本を窃取した旨記載し、署名欄に「田丸勝彦」と冒署し、その名下に自己の指印を冒捺し、もつて同人作成名義の事実証明に関する私文書である供述書一通(前同押号の二一の捜査報告書中の「供述調書」と題する部分)を偽造したうえ、同月一九日ころ、同所において同署長に対し、あたかもこれが真正に成立したものの如く装つて提出して行使し、

たものである。

(証拠の標目)(略)

(法令の適用)

被告人の判示各所為中、第一の一の1および2の各所為は、いずれも刑法一五九条一項に、第一の一の3の各所為は、いずれも同法一五六条、一五五条一項に、第一の二の所為のうち各偽造私文書行使の点はいずれも同法一六一条一項、一五九条一項に、各虚偽有印公文書行使の点はいずれも同法一五八条、一五六条、一五五条一項に、各該当するところ、右第一の二の各偽造私文書の行使および各虚偽有印公文書の行使は一括して為されたものであるから、一個の行為で一三個の罪名に触れる場合であり、かつ第一の一の1および2の各私文書偽造と第一の二のその各行使との間および第一の一の3の虚偽有印公文書の各作成と第一の二のその各行使との間にはそれぞれ手段結果の関係があるので、以上第一の一および二の各所為については、同法五四条一項前段、後段、一〇条により結局一罪として最も犯情の重い大木和則に関する虚偽有印公文書行使罪の刑で処断することとし、第一の三の所為のうち、虚偽有印公文書の各作成の点は、いずれも同法一五六条、一五五条一項に、その各行使の点はいずれも同法一五八条、一五六条、一五五条一項に各該当するが、右各行使は一括して為されたものであるから、一個の行為で六個の罪名に触れる場合であり、虚偽有印公文書の各作成と、その各行使との間にはそれぞれ手段結果の関係があるので同法五四条一項前段、後段、一〇条により結局以上を一罪として最も犯情の重い大木和則に関する虚偽有印公文書行使罪の刑で処断することとし、第二の一の所為のうち私文書の各偽造の点はいずれも同法一五九条一項に、その各行使の点はいずれも同法一六一条一項、一五九条一項に、各該当するが、右各行使は一括して為されたものであるから一個の行為で二個の罪名に触れる場合であり、右の各偽造とその各行使との間にはそれぞれ手段結果の関係があるので同法五四条一項前段、後段、一〇条により結局以上を一罪として最も犯情の重い大同正和に関する偽造私文書行使罪の刑で処断することとし、第二の二の所為中私文書の偽造の点は同法一五九条一項に、その行使の点は同法一六一条一項、一五九条一項に、各該当するが、右私文書の偽造とその行使との間には手段結果の関係があるので同法五四条一項後段、一〇条により一罪として犯情の重い偽造私文書行使罪の刑で処断することとし、第二の三の所為中私文書の偽造の点は同法一五九条一項に、その行使の点は同法一六一条一項、一五九条一項条に、各該当するが、右私文書の偽造とその行使との間には手段結果の関係があるので、同法五四条一項後段、一〇より一罪として犯情の重い偽造私文書行使罪の刑で処断することとし、以上各罪は同法四五条前段の併合罪なので、同法四七条本文、一〇条により最も犯情の重い大木和則に関する判示第一の三の虚偽有印公文書行使罪の刑に法定の加重をし、なお情状憫諒すべきものがあるので同法六六条、七一条、六八条三号を適用して酌量減軽した刑期の範囲内で被告人を懲役一〇月に処し、押収してある捜査報告書(昭和四九年押第七八号の四)中の被害届および押収品目録部分は、判示第一の一の1の、捜査報告書六通(同押号の二、四、六、八、一〇および一二)中の各「供述調書」と題する部分は、いずれも判示第一の一の2の、右各捜査報告書中のその余の部分は、いずれも判示第一の一の3の、捜査報告書二通(同押号の一四および一七)中の各「供述調書」と題する部分は、いずれも判示第二の一の私文書偽造の、捜査報告書(同押号の一九)中の右と同様の部分は、判示第二の二の私文書偽造の、捜査報告書(同押号の二一)中の右と同様の部分は、判示第二の三の私文書偽造の、各犯罪行為により生じた物もしくはそれと一体不可分をなす物で、なんびとの所有をも許さないものであるから、いずれも同法一九条一項一号、二項により、これらを没収し、訴訟費用については刑事訴訟法一八一条一項本文を適用して全部これを被告人に負担させることとする。

(判示の各「供述調書」と題する文書の性格について)

右各文書の性格について検察官は本位的訴因において、それらはいずれも司法警察職員が犯罪の捜査に当り、その権限に基づき所定の形式に従って作成する供述調書の性格を有するもので公文書であると主張するので以下この点について判断する。

思うに刑法にいう公文書とは、公務所、公務員がその名義をもつてその権限内において所定の形式に従って作成すべき文書と解され、司法警察職員らが刑事訴訟法一九八条、二二三条に基づき犯罪捜査のため取り調べた被疑者らの供述を録取して作成する、いわゆる供述調書が右にいう公文書に当ることは明らかである。

ところで前示各文書(以下この項においては本件文書という)について検討するに、本件文書は、簡易送致相当の少年事件の捜査に当った司法警察職員が作成する少年事件(簡易)捜査報告書中の供述調書欄箇所部分の文書で、それには「供述調書」と表題が付されており、かつその文書内容として冒頭に「いいたくないことは、いわなくてもよいとお聞きしよくわかりました」との不動文字が記載されているうえ、右文書部分(供述調書欄)のすぐ右側の箇所欄に「被疑者を任意取調べたところ、云々」の不動文字の記載があり、それに接続してその左側下方にその作成名義と認められる所属官公署司法警察員の官職の記載と署名、押印がなされていて、本件文書をもつて一般に司法警察職員が作成する供述調書と同視できるような点がないわけではない。

しかしながら、(一)本件文書には、供述調書として認められるための重要な点である、供述を録取した旨の記載がなく、その旨の記載は本件文書部分以外の箇所にも見当らない。そしてまた本件文書部分を含めて捜査報告書の記載全体をみても、本件文書に「供述調書」なる表題が付されている外は他に、供述者に本件文書を閲覧させ、又はこれを読み聞かせた旨等本件文書が供述者の供述を録取したものであることを窺わせるような記載もない。かつそのうえ(二)本件文書には、供述者の署名押印があるのみで録取者の署名押印がなされていない。それのみか書類様式をみると、そもそも本件文書箇所(供述調書欄)には供述者の署名押印欄は設けられているのに録取者の署名押印欄が設けられていないのである。もつとも右の録取者の署名押印の点については、本件文書部分の右側に接続する別欄箇所部分に「右の報告書により、被疑者を任意取調べたところ、簡易送致することが相当と認めるので、次のとおり報告する」旨の不動文字の記載があり、右不動文字記載箇所の左下方部分に所属官公署、官職氏名の記載と署名があり、かつ署名下に押印がなされており、右部分の署名押印が本件文書とも一体をなすものと解する余地がないわけではない。しかし右部分の署名押印がその右側箇所欄に記載された前記不動文字の文言を内容とする文書についてのものであることは、右不動文字記載箇所および署名押印箇所の位置等に照らし明らかであるところ、その文面(供述を録取した旨がその文面にないことに留意すべきである)からすると、右署名押印は本件文書部分以外の部分、主として本件文書部分の左側の意見欄部分と結合するものと解せられること、さらに形式面からみても、右部分の署名押印者と本件文書の供述者を取調べた者とが同一の者であることは必ずしも明らかでなく、むしろ両者が異ることも予想され、現実の運用面においても両者が一致しないこともありうるとされていること(証人槇野良三の当公判廷の供述)、その他前示(一)で述べた点等を考えると、右の署名押印が本件文書部分とも一体をなすものとは解し難い。さらに(三)本件文書作成について現実の取扱い運用をみても、証人槇野良三の当公判廷の供述等によれば、簡易送致相当の少年事件については捜査書類が簡略化されていることから、捜査報告書中の本件文書に当る被疑少年の供述調書欄の記載については、正確を期するとともに本人に反省を求める意味で、原則として被疑少年自身に自書させ、場合によつて警察官が代書するという運用および指導がなされ、取調官においてこれを記載する建前をとつておらず、その訂正箇所には供述者(被疑少年)が訂正印を押捺する取扱い(現に本件文書においてもその訂正箇所には供述者名下の指印と同様の指印が押捺されている)となつていることが認められる。

以上の諸点を勘案すると、本件各文書は、検察官が本位的訴因で主張するように、これらをもつて一般に司法警察職員が犯罪捜査のため取調べた者の供述を録取して作成する、いわゆる供述調書の性格を有する公文書と解するのは相当でなく、本件各文書の供述者を作成名義人とする事実証明に関する私文書と解すべきである。

(量刑の理由)

被告人は、本件犯行当時警部補として非行少年の補導、少年犯罪の捜査および署長の事件送致事務の補佐など重要な職責をもつ地位にあつたもので、自己担当の事務、ことに少年事件の捜査処理に当つては少年の人権尊重はもとよりその保護育成を旨とすべきことを十分に自覚して然るべき立場にあつたのに、その職責に反し、簡易送致相当の少年事件の捜査処理については事実上自己の判断で処理しうる地位にあつたことから判示のような各犯行に及んだものであつて、本件犯行は人権にかかわる職務に関する犯行であるうえ、自己の地位を悪用しての職務違反の犯行といわざるをえない。そしてその犯行内容をみると、被害届一通と被疑少年の自白供述書一〇通の各偽造行使および内容虚偽の捜査報告書六通と簡易送書六通の各作成行使で、犯行数も決して少なくなく、かつそのうえ本件犯行は被告人のみの発意にかかり、被告人においてその大半の実行に及んでいるのであり、また犯行の方法も判示第一の被疑少年の自白供述書の偽造に当り、その発覚を免れるため署名部分を部下の者に冒書させるなどの工作を弄しており、本件犯行をもつて偶発的犯行とは認め難く、ことに判示第一の犯行は、判示容疑事実について被害事実の存在すらこれを確認するに足りる証拠がなく、ましてや判示少年らの容疑を認めうる資料が殆んどないまま、十分な捜査を遂げることなく、こともあろうに被害届および判示少年らの自白供述書を偽造して証拠を捏造したうえ、内容虚偽の捜査報告書、簡易送致書を作成行使して判示少年らを被害者の立場に置いたものであつて、少年らの人権を侵害すること甚しく、人権保障を旨として犯罪捜査に当るべき者として、全くあるまじき所為というのほかなく、さらに前記のような被告人の職責地位を考えると、被告人の責任は厳しく追求されるべきである。加うるに本件行為によつて判示少年らに与えた精神的苦痛や悪影響も大きく、かつまた捜査機関としての警察に対する国民の信頼を著しく低下させたことなど社会に与えた影響も無視できないこと等を考えると被告人の本件刑責は誠に重大といわざるをえない。

しかしまた一方、本件犯行は簡易送致相当の少年事件の捜査処理に関してなされたものであるが、一般に簡易送致相当の少年事件については、その送致は実質的には警察限りの措置として形式的送致とされ、関係書類も簡略化されており、家庭裁判所等においても書面審理にとどめられるのが通常であり、かつまた実務の実情もややともすると安易な処理に流れがちであつたこと、それがため被告人も気を許し、実質的には警察内部だけの処理に等しいものとの安易な考えから、また判示第一の犯行の時期が時あたかも盗犯検挙月間と指定されていた時期で事件処理の成績を挙げることが要請されていた事情もあつて、本件犯行に及ぶに至つたものであり、被告人には判示少年らを罪に陥れるというような意図はなく、自己の行為によつて少年らが現実に処分を受けたりするようなことはないと考えていた(現にこのような事態は生じていない)ものであつて、その動機原因に酌量すべき点がなくはないこと、そして犯行の具体的内容事情も、判示第二の各犯行については、当該事件については捜査が挙げられており、ただ被疑少年の供述調書欄部分のみが作成されていなかつたため再度少年の出頭を求めるのは本人に気の毒だとの配慮からその各偽造に及んだにとどまるのであり、判示第一の各犯行についてみても、判示のような容疑事実について、それを疑うべき資料が全くなかつたわけではなく、また被疑者とされた判示少年らのうち、少なくとも一名は呼出しのうえ、右容疑事実について取調べを行なつていることが窺えること、さらに犯行後の情状として、被告人は本件発覚により懲戒免職となり、十数年の長きにわたつて営々として築き上げてきた警察官としての地位を失つたばかりか、本件が新聞等に報道されて社会の批判を浴びるなど、すでに相当な社会的制裁を受けていること、一方被告人の本件行為によつて被害を受けた少年らに対しては、それぞれ相応の慰籍の措置が講じられていること、その他被告人にはなんらの前科前歴がないばかりか、過去における警察官としての勤務態度も極めて熱心かつ良好で数度の内部表彰を受けているもので、本件に対する改俊の情も極めて顕著なものがあり、現在は妻と幼児二名を抱えて、一家の支柱となつて真面目な生活を送つていること等被告人のため斟酌すべき情状も存する。

以上のような諸事情を彼此考察すると、被告人のため斟酌すべき前示情状に照し、情状憫諒すべきものとして酌量減軽するのを相当とするが、さればとて前示のような被告人の本件刑責の重大なることにかんがみると、被告人に対し刑の執行を猶予することは相当でなく、実刑は免れ難いものと思料する。

(裁判官 家村繁治 古性明 松田清)

参考

別記様式

簡易送致相当の少年事件の取扱いについて(例規)〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例